(1)文系の情報に対する基本的な考え方の検討
(2)教育現場へのアンケートの実施と分析
(3)章だての提案と内容項目のリストアップ
(4)学習課題と学力項目
(5)具体的な授業案の提案と試行
ここでは、前回の報告と重複するが、要点についてまとめておく。
(1)情報処理装置はブラック・ボックスとして扱う(構造や構成には立ち入らない)。
(2)情報技術のうち、例えば「情報処理装置の利用技術」などは、ブラック・ボックス的に扱う。
(3)情報技術のうち、例えば梅棹忠夫の「知的生産の技術」のような意昧での技術は、明示的に扱う。
(4)情報センス(情報化や記号化といったことの大切さを知ることと情報に対する感度〉みたいなものを重視する。
(5)できるだけ背景となる学問は何か(例えば学問の構造とか、学問の基本概念とか)の存在をにおわせるようにする。(6)言語・心理・論理(文系のベースとして取り入れるべきと思われるもの)を重視する。
(7)情報社会と人間というような項目は、きわめて重視する。
(8)トピック(教養編がトピック型になろう)でなく、筋の通った展開とする。
(9)産業界に就職するものにとっても、現代社会における情報の機能を理解できるようにする。
(10)生徒の生活の場における情報機能にスポッ卜を当てる。(11)情報産業の実態を取り上げる。
(12)情報技術の影響を受けた社会の問題点を理解させる。
(13)情報経済学、経営情報学、情報法学や情報社会論、情報文化論あるいはコミュニケーション論、情報メディア論の基礎となる内容を取り入れる。
(14)数学を使わない(四則演算程度)。「はじめにーーありき」式にはしない。
(15)生徒のレベルを想定して、それに合わせる。内容は専門的でも、説明や例はわかりやすく、やさしく。
(a)理解すべき情報知識
情報が当然のごとく扱われる場での情報の流れ、情報の果たす役割、情報に対する信頼性の確認の仕方と情報源の確認の仕方、情報の収集・加工・分類・活用法、ドキュメンテーションの書き方、情報機器の機能など、コンピュータに関する知識など。
(b)把握すべき情報概念
現代情報科学の基礎(考え方)、情報文化論、情報社会論、情報経済論、情報経営学、情報法学などの学問の基本的な考え方、情報の形式(アナログとディジタル)、人と動物における情報行動、情報に関するモラル、情報の信頼性、コミュニケーションと情報の関係、情報化時代の哲学など。(c)習得すべき情報機器技術
・統計処理技術、、報告書の作成(DTP,レイアウト)、表計算ソフトなどの利用技術、ネットワーク利用技術、データベース検索技術など。
(d)形成すべき情報態度・習慣
・出所の分からない情報やデータをまず疑う態度を持つ。
・データを得る前に行われた計測や調査がどのような条件のもとで行われたかを確認する態度を持つ。
・視座や視点を与えられたものだけに固定せず、自分でいろいろな視座や視点を設定してみるという態度を持つ。
・与えられた条件のもとでの情報表現を鵜呑みにせず、自分でいろいろと表現法を変えて、新たな情報に気づく可能性がないかどうか検討する態度を持つ。
・パブリックな情報とプライバシーが関わる情報の配慮
・聞く人の立場に立って、分かりやすく伝える努力を払うこと。
・自分の作成した作品や提案に対して、改善情報を求め、よりよいものに修正する態度を身につける。
・他人の作品や提案に対して、良い点はほめ、悪い点は改善情報を提供するようにする。
・自分の経験から得たノウハウなどを文書や電子情報の形でのこし、次の機会に役立ててもらうよう心がける。
<総合的な能力としてみて>
(1)計画・企画力
(2)分析、設定、デザイン
(3)プログラム開発
(4)プロジェクト運営スキル
(5)グループ作業での自分の意図の伝達,説得
(6)システムを評価、改善する力
(7)プレゼンテーション力
(8)(高校生なりの)研究スキル
(9)情報の収集・分析・処理・伝達の実習
(10)システム設計・プログラミングの実習
(11)異なる地域や国際協力を含めた共同作業の実習
(12)ソフトウェアの分類と的確な選択
(13)ワープロソフトウェアの活用
(14)表計算ソフトウェアの活用
(15)データベースの活用
(16)図形処理ソフトウェアの活用
(17)通信ネットワークの活用
(3)調査の対象今回、調査対象としたのは、大学において情報教育を主として担当している教員であった。幸いなことに、平成7年度の文部省主催の情報処理教育研究集会が平成7年12月14・15日に大阪で開かれ、我が国の関連する担当者約900名が一同に会する機会があったので、この場を借りてアンケート用紙を配布し、提出していただいた。回答は130名であり、その内訳は図に示すように、大学教員が理系学部20名、文系学部16名、その他(教員養成、医学、看護学部など)28名の計64名、短期大学の教員が理系6名、文系29名、その他23名の58名、高等専門学校の教員が8名で総計130名であった【図4-2-1】。 |
【図4-2-1 アンケート回答者の内訳】 |
このアンケートは、上記の項目の他にも自由記述や他の質問項目もあり、回答に時間を必要とする。それでも、回答して下さった130名の教員は、1つ1つの質問に対して丁寧に回答しており、関心の深さがうかがえた。
さらに、現行のカリキュラムでは、数学や物理で情報の内容が扱われていることに関しては、全体で半数以上の教員(58.5%)がその事実を知っていたが、その内容に関心があると答えた教員の数は全体で6.6%であった。以下に、これらの質問に対する回答の分布を大学種別に示す【図4-2-5】【図4-2-6】。
これらの結果から次のような傾向が読みとれる。
「第1章 情報とシステム」「第2章 情報化と社会」「第6章 情報化社会と今後」については多くの教員が文系、理系を問わず高校段階のカリキュラムとして必要と考えている。
しかし、「第3章 生活とコミニュケーション」については、文系のみでよいと考えている教員がどの項目についても目立っている。(総数としては、両方と答えているもの、不要と答えているものの方が多い)。
これらの傾向について、理系の大学・学部あるいは短大に勤務している教員と文系との判断が異なるかどうか調べたが、いずれも有意差はなかった。
「第4章 人間の情報処理」「第5章 情報化をささえる技術」については、さらに分散して表に示すように意見が分かれるところである。さらに「第7章 システム的な見方、考え方」は、文系としては、最も重要視した「システム的な考え方」の項目であるが、理系のみあるいは不要と答えている回答が、他の項目に比較して多いのが気になる。今回の調査では、課題の例示を示さず、項目のリストアップのみであったため、システムの意味を数学的、あるいは工学的に堅く捉えたためであるとも考えられる。
本調査は、第1次の集計が終了した段階であり、詳細は今後の分析あるいは、他の調査との関連分析の結果に委ねることになるが、一般的な傾向としては、ここにあげた項目は、文系のみというよりは、理系、文系を問わず両方に必要と考えられているものが多い。したがって、カリキュラムの構成としては、早期にコースに分けるのではなく、全員必修の教養的部分を明確にし、さらに専門的な選択部分を準備することが現実的と考えられる。