.大学の附属センターからの教育情報の提供
1.はじめに
これまで蓄積されてきた教育情報を相互に利用できるような仕組みを開発し,マルチメディアを中心とした教育情報の組織的な流通の促進を支援することを目的に,流通可能な教育情報を組織的に収集し,デジタル化情報としてコンピュータに蓄積してネットワーク利用できるようにする。このためにまず,本研究による調査研究の第2班では,インターネットで流通利用可能な教育情報を調査・開発し、「案内型の教育情報」と「事実(ファクト)形の教育情報」の2点で分類・整理してきた。これまでに整理した教育情報は、主にインターネットのWWWサーバーにより試行的に運用・提供している(http://www.crdc.gifu-u.ac.jp/cerd/)。
【図4-2-1 センター協議会のホームページ(教育情報の所在リスト)】
2.案内型の教育情報
教育で活用できる情報の所在を収集し,それへの案内(リンク)を提供する。この特徴として,教育利用を目的とした情報のほか,専門家や専門機関が提供している専門的情報かつ最新の情報で教育実践で活用できるものの紹介がある。教育利用を目的とした情報のページへのリンクは,情報を共同利用することで,重複した情報提供を避けられるという利点があげられる。わが国でのこの教育向けの案内情報リストの例として,なりたまの教育情報ガイド(山梨大)(http://jizo.cer.yamanashi.ac.jp/narita/edudir/edudirhome.html),弥彦(新潟大)(http://www.ed.niigata-u.ac.jp/wlist.html),初等中等学校関係ホームページ(兵庫教育大)(http://202.254.13.94/school.html)等がある。
【図4-2-2 なりたまの教育情報ガイド(山梨大)】
【図4-2-3 なりたまの教育情報ガイド(学習者のための情報ガイド)】
【図4-2-4 なりたまの教育情報ガイド(教師・教育研究者のための情報ガイド)】
最新の情報は
・弥彦(新潟大)へ
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最新の情報は
・初等中等学校関係ホームページ(兵庫教育大)へ
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【図4-2-5 弥彦(新潟大)の教育情報リスト】
「なりたま教育情報ガイド」では、インターネット上の教育情報を、対象者として学習者と教師・研究者に分類し、さらに学校等が提供する情報も含めて整理している。
新潟大、兵庫教育大の各センターでも教育に関する情報を幅広く収集して教育関係者が関連情報へアクセスするための簡便な手段を提供している。
岐阜大学カリキュラム開発研究センターでは共同作業により教科等の教育情報を収集し、提供可能とする手法を開発してきた。
WebREC(http://www.crdc.gifu-u.ac.jp/WebREC/)も,教科教育で活用できそうな情報へのリンクのリストを提供している。通常このような案内リスト維持の問題として,作成者の関心分野に内容が依存したり,有用なページの発見とリストの更新に時間や手間がかかることが上げられる。しかし,このページの特徴は,利用者が有用なページを見つけた場合にはその情報を登録でき,登録結果が即座にリストに反映されることである。すなわち,利用者の共同作業によって,教育で活用できる情報リストを維持していくことができ,先の問題を改善するものである。
【図4-2-7 WebRECへの教育情報の登録(岐阜大)】
教育固有の案内情報として教育実践・研究文献情報を見ると, そのデータベースとしては,鳴門ネット・文献検索システム(鳴門教育大学)(http://166.204.190.99/bunken.html) ,EDMARS教育研究文献情報データベース(岐阜大)(http://www.crdc.gifu-u.ac.jp/edmars/)等がある。
鳴門ネット・文献検索システムは、比較的早期から検索サービスを提供しており、WWWからtelnetを起動して、リモート端末として検索可能な環境を提供している。このため、GUI環境を持たない端末からの利用も可能であり、独自に構築しているパソコン通信である「鳴門ネット」からも同一の方法で利用可能となっている。
検索可能な主な情報は、以下の様である。
・教育研究関連の文献情報
・教員研修講座関連の情報
・学習ソフトウェア関連情報
【図4-2-8 教育情報の検索(鳴門教育大)】
【図4-2-9 教育文献情報EDMARSの検索(岐阜大)】
EDMARS教育研究文献情報データベースは,CGIでWWWのページから検索できるようになっている。現在,過去10年間の教育工学関係(約9100件),算数・数学教育関係(約2500件) , 保健・体育教育関係(約4900件) を運用中であるが,'95年度末までには各科教育関係文献(理科,社会,国語,音楽,美術・図工,英語,家庭科,技術科), 教育学・心理学関係研究文献のデータベースを運用する予定である。
また,学校でのコンピュータを利用した学習指導を支援する情報として,(財)学習ソフトウェア情報研究センターと協力し,学習用ソフトの二次情報データベース(http://www.crdc.gifu-u.ac.jp/gakujokn.html )を試験的に公開している。
3.事実(ファクト)型の教育情報
文字による情報のほか,マルチメディア教材作成のための映像・音声など学習指導で利用できる情報そのものを収集・整備し,ネットワーク上で提供する。以下に,このような情報を提供するページをあげる。
地域素材を含めた児童生徒の学習成果集には,NICEプロジェクトのユキダス(http://toki.ed.niigata-u.ac.jp/yukidasu.html)等がある。
【図4-2-10 ユキダスの提供している情報(NICE)】
NICEプロジェクトは、「新潟インターネット教育利用研究会」(Niigata Internet Conference on Education)として、新潟大学教育学部教育実践研究指導センター、長岡技術科学大学計画・経営系、上越教育大学学校教育研究センターが行っており、その中の「ユキダス」では、以下の活動を進めている。
- 新旧の手段による今冬の積雪予測を収集。(これを新旧の積雪予測と呼びます)
- 技術・機械力を駆使した専門的分析による今冬の積雪予測(新潟気象台発表)を収集。
- 自然界の現象から今冬の積雪を予測する伝承(先人の知恵)を収集。
- 国内外にそのような伝承があれば、あわせて収集。
- 本格的な降雪前に、得られた新旧の積雪予測から各グループの積雪予想をたてる。
- 本格的な降雪前に、各グループの予想から全体討議で県全体の予想をたてる。<
- 今冬の積雪観測を行う。
- 春に、新旧の積雪予測と各グループでたてた予想とを比較。
- 春に、全体でたてた県全体の予想は、どうであったか全体討議。
- まとめ
- 科学研究発表会で発表。
- 上記活動と並行して
- 全体で「ゆきぐにのことばマルチメディア事典」を作成。
- 「ゆきぐに放送局」をCU-SeeMeで定時番組放送。
- 各グループで付随イベントを行う。
たとえば、積雪量について以下の様なグラフに加工した情報も提供している。
【図4-2-11 ユキダスの提供している積雪情報(NICE)】
岐阜大学カリキュラム開発研究センターでは,映像等の教育素材を提供している。
映像等の教育素材は、教育用マルチメディア素材資料集(http://www.crdc.gifu-u.ac.jp/mmdb/)として作成している。
【図4-2-12 マルチメディア素材データベース(岐阜大)】
現在, 映像素材約1400件を公開しているほか,研究協力関係にある教師のみが利用できる素材約2000件を登録している。
【図4-2-13 マルチメディア素材データベース(岐阜大)】
マルチメディア素材は、一覧から探索して入手することも可能であるが、提供情報が多量となった場合には、目的の素材を検索語等を指定して入手することも必要となり、そのための検索手法も提供している。
検索された映像は、学校教育で加工して利用することも可能であり、OHP等の提示資料やマルチメディア教材開発に適用されている。
【図4-2-14 マルチメディア素材データベースの一覧と映像素材(岐阜大)
さらに,映像素材を図鑑的なマルチメディア教材として構成したずかん(図鑑)(http://www.crdc.gifu-u.ac.jp/zukan/zukan.html)を公開している。現在「木曽川を調べよう」「和傘のできるまで」「岐阜県の帰化植物」「校庭の野草」等がある。HTMLで記述してあるので,ダウンロードすることなくオンラインで利用できる。
【図4-2-15 岐阜の野草図鑑の検索(岐阜大)】
さらに, 静岡大・情報学部の永野和男教授を中心とする情報教育の実践研究、支援ソフトの開発を行っているボランティアグループ「火曜の会」では,教育用の簡便なマルチメディア作成ソフト(Windows版のKiT95,KiT95エディタ) を作成し,教育関係者に無料で提供するとともに,そのソフト上で利用できる教材ソフトを集積し提供を行っている。
・火曜の会ホームページ(http://kayoo.ia.inf.shizuoka.ac.jp/kayoo/default.htm)
【図4-2-16 マルチメディア教材の提供(火曜の会)】
4.今後の課題
これまでに述べてきた事例は、本研究等に関わり国立大学教育実践研究関連センター協議会で整備を進めてきた教育情報であり、実際な提供がすでに可能となっている。岐阜大学カリキュラム開発研究センターへのアクセスは図のようであり、小・中学校からもリンクされ、活用され始めている。
静止映像のデジタル化によるネットワークでの流通利用の仕組みはほぼ実用となっているが,このほかの事実型の教育情報で,学校や実践センターの双方で必要度が高いとされた実践記録のVTR,教材VTR・映画や素材としての動画については,現在のインターネットの環境では困難である。これについては,衛星通信のような映像・音声のリアルタイム性が高い通信系による情報提供を検討し,その利用研究を行う必要がある。また、これらの教育情報の流通については、教育現場、地域の教育センター等を含めて組織的な流通システムについて検討する必要があり、次年度の課題である。
参考・引用文献
- 加藤直樹・木下康彦(1995)「マルチメディア教材開発のための素材データベースのインターネットによる流通」教育情報研究,Vol.11,No.1 pp.13-18
- 小坂享史・岩崎千宏・村瀬康一郎・加藤直樹(1995)「インターネットを利用したマルチメディア教材の提供」日本教育情報学会年会論文集11,pp.122-123
- 黒田卓・内山渉・小川亮・生田孝至(1996)「新潟地域におけるスクールネットワーキングの動向と課題」日本教育工学会研究報告集JET96-1,pp.57-62
(加藤直樹:岐阜大学)
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