2)教育現場に提供されているInternet環境の問題点
教材をWWWで提供する場合,問題になるのが回線速度と実際のデータ転送の速度である。100校プロジェクトの状況をみても,28.8Kbps から 64Kbps の回線速度での利用が中心になっている。しかし,64Kbps の回線速度で WWWホストにアクセスした場合,本来の回線速度の他に,基幹ネットのトラフィックや,ホスト側のパフォーマンスによって,およそ,3.0Kbytes/sec から 数百 bytes/sec のデータ転送速度となる。16Kbytes 〜 32Kbytes 程度のファイル転送を試した場合で,およそ,約1.0bytes/secという値が平均的な数字と思われる。
転送速度と実際に提供されているWWWのドキュメントを見た場合,ドキュメントを記述する側は,クライアントがドキュメントを開くのにかかる待ち時間については,あまり注意を払わない傾向がある。例えば,多くのホストでは,ホームページの表紙にあたる部分にはサイズの大きな画像ファイルを貼り付けてあり,WWWの本来の目的である情報のリンクよりも,デザインに重点が置かれている。また,ページに変化を付けるため,クリッカブルマップを利用したページが見られるが,マウスで正確にマップ上のある特定の位置をクリックする必要からマップ自体のファイルサイズが大きくなりやすい。
現実の回線速度を見れば,ブラウザのボタンを押し,反応が返ってくるまで,次に現れるドキュメントへの期待を持続させるには,待ち時間が長過ぎるといえる。HTML で記述された一まとまりのデータを個別に転送し,不必要な待ち時間を作るより,オーサリングツールで作られたモジュールを一括して転送し再生するほうが,現状においては大きな利点がある。
以上のように,現在の技術からみた実用的な側面を留意し,ネットワークの利点を生かした教育利用を図るためにはどのようにすればよいか。Internetへの発信が単に紹介用のパンフレットに止まらず,教材を開発することが,将来のネットワークの共同利用に発展していくようにするためには,どのように考えればよいか。次に,具体的な解決策について述べる。
(a)Windows上で,簡単な作品(または教材)が子どもたちのレベルで作成できるためのツールの開発。具体的には,数年前より教育現場の先生方の間で使われている,教材開発用ソフトKiT (広島県の高校教師である加藤譲氏らが開発)をもとにして,視覚効果や反応処理機能を拡張したKiT 95を開発し,これを画面上で簡単に作成できるオーサリングツールを開発する。(b)KiT あるいはKiT 95で作成した作品(または教材)をInternetに登録,受け付け,WWWサーバーからブラウザを介してパネル表示,入手実行できる仕組みを開発する。
1) KiT95開発の背景
筆者(永野)らはこれまで,(1)画面構成法による教材作成支援システム「EDDY-os」の開発(吉谷 1985,永野 1987),(2)異機種間の互換性や共同開発を前提としたシステム開発のための構造化BASIC「PREBAS」の開発(永野 1985,奥村 1991),(3)小学校段階でコンピュータを道具として利用するための各種教材の開発・実践と,インターフェイスの研究(永野 1988)などを行ってきた。これらの一連の研究は,自作教材開発のためのツールを具体的に提供したと同時に,システムの持つべき枠組みについて整理したものとして評価できる。
一方,KiTは1989年から商用ネットワークであるPC−VANにあるSIGのSTS(教育とソフト)を中心に利用された教材開発用の言語仕様であり,そのプレーヤーやエディタが加藤らによって開発され,無償で教育現場に提供されてきた。当初からKiTは,マウスのみで操作することができるため,操作方法を詳しく説明する必要がなく,コンピュータに精通していない教師でも授業で活用できるという特長を持っていた。現在では,KiTで作成された数百の自作教材が商用ネットワークに登録され,さらに,雑誌等を通じて紹介されるなどして,実際に教育現場で利用されている。また,NEC PC98用/FMR・FM-TOWNS用などのエグゼキュータとエディタがあり,これらの機種での互換性を保証している。
しかし,現在ではWindowsが普及したことに伴い,Windows上で動作するKiTの開発が必要となった。
そこで,KiTをもとにして,上方互換性を維持しながら,Windowsの特徴を生かしたより扱いやすいインターフェイス及び言語仕様を再設計し,視覚効果などの機能を充実させることにした。
<これまでのKiTについて(補足)>
「KiT」は,マウスの操作により動作し,利用者が画面上に設定されたボタンをマウスカーソルで指し,マウスのボタンを押すと,そのボタンに対応した命令,例えば画面の消去や新たな画像・文字・ボタンの表示等を実行する。つまり,教材作成者は,ボタンごとに「〜というボタンが押されたら〜しなさい。」といった形式で,ボタンが押されたときにどのような動作をするのかをスクリプトとして記述する。スクリプトを実行する場合は,「KiTプレーヤー」によって画像や文書,音声を適宜読み込みながら表示する。当初,KiTで教材を作成する場合,作成者はボタンの作成やボタンのリンクなど,全てをスクリプトとして記述しなければならなかった。しかし,作成支援ツール「KiTエディタ」を開発することにより,ボタンの設定や表示位置,大きさ,色,さらには,表示する文書の編集・ボタンのリンク先などをマウスを使ってメニューから選択することで設定することができるようにし,スクリプトの自動記述を可能にした。
KiTで画像・文字・音声を表示する場合は,まず,提示する画像・文字・音声を,市販またはフリーのグラフィックソフトやテキストエディタなどを用いて作成する必要がある。その後,作成したこれらのファイルを,「KiTエディタ」を利用して,表示位置や表示色を設定することができる。画像は,4096色中16色で,全画面の画像と部分の画像をそれぞれ独自の方法で圧縮したファイルを使用する。また,音声は,一般的な8ビット11kHzまたは22kHzでサンプリングされたものと,それらを独自のツールで圧縮したものを使用する。このように画像・音声を圧縮する方式を導入して,フロッピーディスクでも収まるよう配慮している。
画面を切り替えるための視覚効果には,フェードイン・フェードアウトに加えて,画面が上下左右にスライドするように変化する効果,ブラインドが開くように変化する効果,さらには渦巻きのように変化する効果などがある。
また,スクリプトに関しては,グローバルに定義されたa〜zの26個の実数変数が利用でき,その変数を利用して,条件分岐(if 〜 then 〜 else)や,ループ(for 〜 to 〜 do 〜)が利用できる。四則演算や三角関数,絶対値,乱数などの演算をすることもでき,さらに,利用者が入力した数値によって,分岐(Case)することもサポートされていた。そして,他のDOSプログラムも動作させることができるので,DOSプログラムのプラットフォームとしても利用された。
2)KiT95の開発
ソフト教材の開発においては,開発者が各種の手法を学び実践していく方法に加え,それらの手法が無理なく実践できるような実行ソフトや開発ツールの改良を行っていくことが必要である。特に,後者に関しては次のような解決すべき問題点があると考えられる。
(1)KiT95スクリプトの言語仕様(KiTからの機能向上)
対応する画像形式については,システムに合わせて多様な色数の画像を表示できるようにし,GIF形式やJPEG形式,PCX形式,PNG形式の画像ファイルを利用できるようにした。
画面を切り替えるための視覚効果としては,新しい画面がせり上がったり,市松模様で画面が変化するものを追加した。KiTでは,マウスを押すというイベントに対してのみ動作を記述できたが,KiT95では,「マウスのボタンを押す」「マウスのボタンを離す」「ボタン領域から出る」「ボタン領域に入る」という4つのイベントに対応する動作ができるようにした。この4つのイベントに対して画面のボタンが動作し,他のボタンを表示したり,他のカードにリンクしたりする。これらの動作は,これまでのKiTを継承しており,HyperCardとほぼ同様である【図4-1-1】。
(2)スクリプトの構成
KiT95は,これまでのKiTと異なり,カードという概念をもっている。スクリプトは,カード単位に編集でき,管理される。これは,画面ごとに設計したり,カード単位の複写を,スクリプトレベルでもオーサリングのレベルでも可能にして,より大きな作品を短時間に作ることができるようにするためである。1つのカードは,*CARD:ではじまり,次のカードの定義で,終了する。カード内のボタン上で起こる操作を,イベントと呼び,それぞれのイベントに対して動作を記述する。
スクリプトの記述仕様は,次のようになっている【図4-1-2】。
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------/KiT95.Win ← KiT95の識別子 ’ 開発者に関する情報など *CARD:<カード名> ← 一つ目のカードのはじめ *BUTTON ←このカードのボタン宣言開始 <ボタン名>:<描画命令> ←ボタンの種類,配置場 所の定義 ON <イベント> ←ボタンに対するイベント <実行命令1> ←イベントに対する処理 <実行命令2> .... END .... *INIt ← カードの画面初期状態の命令 <実行命令1> <実行命令2> ........ ’ ← コメント行(どこにいれてもよい) *CARD:<カード名2> ←カードのはじめ(以下同様) ........ {EOF}--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
さらに,KiT95で記述できる新しい実行命令は,つぎのとおりである。 --------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
<KiT95.Winで記述できる新しい実行命令の形式> ◆図形描画命令 1)四角の描画 RECT x1,y1,x2,y2,色(省略は透明色),影色(ないときは省略) 2)門丸四角の描画 RRECT x1,y1,x2,y2,色(省略は透明色),影色(ないときは省略) 3)楕円の描画 OVAL x1,y1,x2,y2,色(省略は透明色),影色(ないときは省略) 4)文字列の表示 TEXT x1,y1,文字色,影色(ないときは省略),文字列 <文字列が複数行に渡る場合の記述> TEXT x1,y1,文字色,影色,文字列;文字列;...;文字列 5)イメージファイルの表示 PICTure ファイル名タイプ,x1,y1,x2,y2,枠色,影色(ないときは省略) 6)テキストファイルの内容表示 FIELD 識別名,x1,y1,x2,y2,文字色,背景色,影色(ないときは省略) ◆描画設定 1)文章ファイルセット(従来のcrlに対応) OPENTEXTFile ファイル名, 2)フォントセット FONTset フォント名,サイズ,スタイル,行間 ◆カードの移動,ボタンの表示 1)別のカードへ :別のカードの*INItを視覚効果をつけて表示 GO カード名,<視覚効果> 2)カードの初期状態へ :表示カードの*INIt(初期状態)を,視覚効果をつけて再表示 INIT <視覚効果> 3)ボタン表示:ボタンの描画命令を実行し,ボタンを視覚効果をつけて表示 SHOW ボタン名,<視覚効果> 【便利な記法】 4)次のカードへ:スクリプトで記述されている次のカードの*INItを,視覚効果をつけて表示 カードが最後の時は,一番はじめのカードへ戻る。 GONEXT <視覚効果> 5)前のカードへ:スクリプトで記述されている前のカードの*INItを,視覚効果をつけて表示 カードが一枚目の時は,もう一度1枚目のカードで*InItする。 GOBACK <視覚効果> ◆非表示画面への待避,呼び出し 1)画面保存:現在表示の画面を,一時的に非表示画面コピーする(旧undosetと同様) SAVECard 2)画面作成準備:別のカードの*InItを,裏画面で実行しておく。 MAKECard カード名 3)画面表示:非表示画面に待避(SAVECard),あるいは,作成(MAKECard) しておいたカードを視覚効果をつけて表示する(旧undoと同様) GETCard <視覚効果> 注)このとき,制御は表示されたカードにうつる ◆その他 1) BEEP 音の高さ 2) PLAY 音のファイル名 3) QUIT 終了 KiT95.winの命令は,新しい命令は以上の通りであるが,旧KiTの命令および制御は,当面は,解釈実行される。(上方互換あり) ・視覚効果 利用できる視覚効果は,現在のところ次の11種類である。 1) 旧視覚効果の名称変更(省略記法を使えば,はじめの4つは同じ記法) (1)pushRIGHT ← right (2)pushLEFT ← leftt (3)pushUP ← up (4)pushDOWN ← down (5)IRISopen ← roll (6)BLINDSopen ← blind 2)新規の視覚効果 (7)DISsolve 溶かすように (8)RollUP 上から,挿入する (9)RollDOWN したから,挿入する (10)FADEin ゆっくり暗くしてから,次第に明るくなる (11)FLUSHin 急に明るくしてから,次第に暗くなる--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
(3)KiT95用オーサリングソフトの開発
小学生が利用することを想定して,マウス操作を主体としたオーサリングソフトの開発は,KiT95が,日常的に使われるようになるために不可欠の要因であった。KiT95オーサリングソフトは,リンク設定をマウス操作で行うことができるなど,先に開発したKiTエディタの機能を継承している。しかし,ツールバーやツールボックスを利用して,お絵かき感覚で描画することを可能としたことに大きな特長がある【図4-1-3】【図4-1-4】。
描画はKiT95オーサリングソフト内でも可能だが,他のグラフィックソフトで描画した絵を,カット・アンド・ペーストして作品に貼り付けることも可能である。また,文字表示についても,他のテキストエディタで作成した文書を利用することができる。
このように,高度な編集機能を持っているKiT95オーサリングソフトを使用すれば,ほとんどの教材を短時間で作成することができる。また,旧来のKiTに慣れ親しんでいる開発者は,オーサリングソフトを使用せずに,スクリプトのみを記述して教材を作成することもできる。
1)開発した作品の位置づけ
(1)教育達成目標
この教材は小学校高学年の児童を対象に以下の観点に立って制作された。
・それぞれの時代の歴史上の主な事象について,人物の働きや先人の働きについて関心を深めるようにする。
・身近な地域や国土に残っている遺跡や文化財などを調べて,自分たちの生活の歴史的背景に関心を持つとともに,我が国の歴史を学ぶ意味について考えるようにする。
・今日,我が国は経済や文化の交流などで世界の国々と深いつながりをもっていることを理解できるようにするとともに,平和を願う日本人として世界の国々と協調していくことが大切であることを自覚できるようにする。
・我が国の経済や文化などの面でつながりが深い国があることを調べて,それらの国の人々の生活の様子などを理解し,他国と協調を図るためには正しい国際理解が必要であることを考えること。
(小学校指導要領社会科第6学年 より)
(2)地域教材の位置づけ
自分の住んでいる地域の教材はほかのメディアでも豊富に用意でき,取扱いも便利である。ネットワーク利用の価値は,外の地域の教材を目的を持って使うことにより生じてくる。それは,時間・空間を超えた「教育空間をひろげる」ということである。
そこで,レディネスの少ない他地域の児童が使うことを配慮した教材づくりを行うと共に,そのような教材の機能する場面を検討する必要がある。そこには,環境教育,平和教育,国際理解などの観点が考えられる。
(3)技術的配慮
・できるだけ小さいモジュールにして転送時間を短縮する。
・実際の待ち時間については調査をもとに改良し,絵中心の画面構成や動きのある画面づくりなど,児童が飽きないような配慮をする。
2)具体例(Internet用教材「鳴門とドイツの心と交流」)
(1)テーマを決めたときのいきさつ
徳島県鳴門市板東には第一次大戦時のドイツ兵俘虜(捕虜)収容所があった。青島攻略後,捕虜になった約5千名にも上るドイツ兵は日本全国の12カ所の収容所で約4年半の間捕虜生活を送った。そのなかでも徳島収容所,後の板東収容所の松江所長は捕虜の待遇改善のために心遣いを惜しまなかった。また,積極的に地域との交流を進め,当時進んでいたドイツの文化を取り入れた。このことにより,収容所のあった板東にドイツの文化が定着し,半世紀以上経った現在でも市民レベルの交流が続いている。
たった一人の人間の心遣いがこのような大きな動きとなるということは教材の中では文章化していないが,それを教材の伏線として根底に位置づけ,国際理解教育や平和教育の教材として位置づけたい。
(2)児童のレディネス
小学校高学年の児童に面接法で教材のレディネスに関する調査をした。
・「捕虜」という言葉は知らない。
・相手方に捉えられたらどうなる?という質問に対し,「殺される」,「働かされる」というイメージが定着していた。
・戦争とはどんなこと?という質問に対して,「国と国とが銃で撃ち合いをすること」,「人と人とが闘う」といった表面的な捉え方であった。
・ドイツと聞いて連想することは,ほとんどなかった。
・オーケストラについては中学年の音楽の教科書で触れており,楽器の構成や構成人数についてイメージを持っていた。
・「よろこびの歌」は,教育出版の教科書を例に挙げると,第6学年4月の歌唱表現の教材として扱われている。学校で二部合唱をしたり,年末の演奏会の様子を視聴したりして,よく知っている。
・「よろこびの歌」から受けるイメージは,「迫力がある」「ドーンとくる」「喜んでいる」「いいことがある」「ドイツ語の歌」などがあった。
(3)教材の構成
このレディネスから教材の要素を考え,それをキー項目と,サブ項目に配列した。キー項目は,「戦争」と「所長の人格」の2点に絞った。第二次世界大戦から半世紀,ましてや第一次世界大戦について知っている児童は少ない。また,戦争のイメージもアニメやテレビゲームによるものが多いことがわかった。そこで,捕虜の扱いというトピックに対する認識をもたせた上で,松江所長のドイツ人捕虜に対する扱いをメディアミックスする。このことが児童に揺さぶりをかけ,探求意欲へとつながる。
サブ項目としては,「捕虜収容所」「日本とドイツの戦争」「板東収容所での生活」「強制労働や虐殺」「板東の人たちとのふれあい」を一つの大きな流れに置き,もう一つに「第九について」「第九日本初演の地」「収容所とは」という流れを置いて,最終的に所長の人柄や配慮へとつなげる【図4-1-5】。
児童はこの中を自由に探索していくなかで,(途中でコースをやめることもできるのだが)コンピュータから広がった行動を引き起こすインパクトを得るに違いない。
1)クライアント側のシステム(KITWEXE)
WWWブラウザは一般に,特定のMIMEタイプに対して外部ビューワーを指定し,自動的に他のソフトウエアを起動する機能を持っている。たとえば,Netscapeの場合,音声の再生は MIMEタイプ audio/basic ,拡張子 au のファイルがWWWサーバーから送られてきたとき,NAPLAYER.EXEが自動的に実行されるように設定されている。
このとき,WWWサーバーから送られてきたファイルのファイル名が外部ビューワーに引数として渡される。原理的にはこの機能を利用すると,どのような形式のデータも外部ビューワーで再生することができる。しかし,KiTのようにアプリケーションが複数のファイルを必要とする場合,問題が生じる。すなわち,WWWサーバから送られてくるファイルは1つであり,そのファイルが外部ビューワーに引数として渡されるだけだからである。
そこで,アプリケーションに変更を加えずに,複数のファイルをアプリケーションに渡したい場合,複数ファイルを1つにまとめて転送し,それを展開し,アプリケーションに渡す仲介プログラムが必要になる。これが,今回開発したKITWEXEである。すなわち,KITWEXEはWWWブラウザからLHAで圧縮された1つのファイルを受け取り,それを展開し,制御をKiTプレーヤーというアプリケーションに渡すことにより,KiTの実行を可能にする【図4-1-6】。なお,作品や教材は,あらかじめ圧縮して,1つのファイルとしてWWWサーバー上のデータベースへ,拡張子"LZK"としてあらかじめ登録しておく。
動作は,つぎのようになる。
2)サーバ・システム
サーバには,(1)作品の登録の管理 (2)データベースへの作品の登録 (3)作品紹介のHTML化 (4)KiTプレーヤーやオーサリングソフトの配布などのサービスがある。これらを管理するために,次のようなシステムを構築した【図4-1-8】。
(a)作品登録のためのFTPサーバ
利用者から書くことのみを許可するFTPサーバを運用して,作品の登録を受け付ける。
登録者は作品と登録情報をFTPサーバに書き込む。管理者は,動作チェックを行った後,登録情報をデータベースに登録する。
(b)登録された作品を管理するデータベース
データベースソフトを利用して,全ての作品と登録情報を一括管理する。ここでは,子どもの作品のデータベースと自作教材のデータベースが同じ管理ソフトによって管理できるように工夫している。
(c)データベースから自動的に作成される検索用のHTMLとWWWサーバ
KITWEXEを利用するためにはWWWサーバの変更が必要である。WWWサーバの送出するファイルはMIMEタイプにエンコードされてクライアントに転送される。
KITWEXEの場合,拡張子を"LZK",MIMEタイプをapplication/kitarchiveとする必要がある。
教材データベースの構築WWWサーバで教材の提供を考えた場合,大量の教材を手作業でHTMLに埋めこんでいく作業は膨大な時間と労力を要する。そこで,教材をデータベースで管理し,検索用のホームページにリンクされるHTMLを自動生成するシステムを開発した。開発に利用した検索用アプリケーションはMS-ACCESSである。現在,このシステムで教材の登録,保守,HTML自動生成が可能となっている。このソフトは,同様の目的を持つデータベースサービスに対して汎用度の高いデータベースとなっている。
WWWサーバ・システムは試行的に公開されている。条件が整備されれば,静岡大学情報学部で(利用希望者は,EduIBMla.ia.inf.shizuoka.ac.jpまで)で本格的にサービスする予定である。
今後の課題としては,
謝辞
本研究のシステム開発は,現職教員のボランティアグループ,「火曜の会」の活動の支援によるところが大きい。特に,1)KiT95の開発においては,広島の高校教諭加藤譲氏,2)ネットワークの支援については,埼玉県の高校教諭鈴木成氏,3)教材の開発については,鳥取県の小学校教諭矢田光宏氏,および鳴門教育大学大学院生の石内君の時間を惜しまぬ努力によって実現したものである。記して感謝の意を表したい。
参考・引用文献
(永野和男:静岡大学情報学部)