C.新潟インターネット教育利用研究会(NICE)の取り組み

1.はじめに

 インターネット,マルチメディアということばが日常語と化した現在,学校教育でも既に100校プロジェクトをはじめとした教育での利用に関する研究,実践も試みられ,その成果も現れつつある。しかしながら,新潟県においては,この課題を克服すべきネットワーク基盤が現状では,大学を除いた学校および教育関係機関には存在せず,その整備計画の目処すら立たっていない状況下にあり,今後,その取り組みに大きな遅れを生じることが考えられる。
 そこで,ネットワーク基盤の整備された大学を核に,学校および教育関係機関相互に連携を保ち,インターネットおよびマルチメディアを活用した教育,生涯学習のあり方,地域文化の発信などを研究テーマとし,かかる新情報技術の研修やそれを活用する研究,実践および成果のとりまとめを行う研究会「新潟インターネット教育利用研究会」(Niigata Internet Conference on Education:略号NICE「ナイス」,以下NICEと略す)を設立した。

【図3-5-5 NICEの概要】

2.組織および活動概要

 NICEは以下のような組織で,現在以下のような活動を実施している。
(1)インターネット教育利用のための基本技術研修
(2)インターネット教育利用の研究及び実践
(3)情報交換
(4)研究プロジェクト
(5)研修会および研究会
(6)ユーザー登録

 NICEの活動はメーリングリストを中心としている。さらにNICEの活動報告を主目的とするWWWサーバーを新潟大学教育学部附属教育実践研究指導センターに設置し,各地区に分散するNICEの活動内容をコンテンツ化して「NICEホームぺージ」【図3-5-6】として紹介している。
(http://toki.ed.niigata-u.ac.jp/)

 会員は各地区に設置したアクセスポイントにダイヤルアップで接続し,インターネット上で提供されるサービスのほとんどを利用可能である。会員の所属する学校のホームページも徐々に公開され始めており,学習活動での利用,学習成果の公開,学校間交流等も始まっている。
 これら各会員の活動支援のほとんどは,会員連絡用,ユキダスプロジェクト用,子ども専用交流用,世話人会用の4つのメーリングリストやWebNewsシステム,遠隔操作を利用しながらほとんどオンラインで実施されている。それらを補完するため,研修会,研究会等を定期的に地区毎に実施し,また,全会員を対象とした交流会等も実施している。オンラインとオフラインを取り混ぜながら,可能な限りオンタイムの相互支援体制を構築している。

【図3-5-6 NICEホームページ】

  

3.教育資源データベースの作成

 インターネットを教育で利用する際,データベース的活用がかなりの割合を占めるにもかかわらず,実際に利用可能な意味のある情報は依然として少なく,特に映像,音声といったマルチメディアを利用した情報の蓄積は進んでいない。
 新潟地域は地域文化,伝統芸能が豊富に残っている地域であり,学校を中心とした伝承活動も各所で盛んに行われている。これらは地域を知るため,また,他の地域と自分の住む地域を比較するために非常に重要な資料となる。
 このように様々な教育資源を,自由に利用可能な形式で保存する事を実験的に試みている。この試みには学校関係者だけではなく生涯教育関連機関の協力が重要となる。本会には会員として博物館関係者も参加しており,より幅広い学習環境の構築を目指すものとなっている。


4.NICE主催のプロジェクト−ユキダスプロジェクト−

  

 「雪」をテーマとした,県レベルのネットワーク活用実践としてユキダスプロジェクトを主催している。NICE参加会員のうち有志により新潟県下各地の積雪状況の記録,積雪予測,雪に関する伝承,雪に関する資料収集,他地域との交流等を実施しており,現在11箇所で積雪計測を行っている。本プロジェクトではホスト校を設定し,そこを中心に観測データ,調査の結果のとりまとめ,調査の企画等を行っている。

 これまでのところ,民間伝承として伝わっている「かまきりの卵嚢」による積雪占いのデータに基づき,身近な地域での調査を元に,今年の積雪量の予想を行っている。また「大雪」という言葉の意味する積雪量の地域による差違の調査,豪雪,消雪パイプ,雪堀り,雪おろし=雪起こし(雷)など地域に伝わる「雪」に関係する言葉と画像の収集活動などが既に開始されている。またテレビ会議システムCU-SeeMeを利用した「雪国放送局」も開局している。

 

5.大学を核としたネットワーキングの意義と今後の課題

 本研究会の活動はあくまでも実験プロジェクトである。これまでは,インフラ整備の遅れを補うために実験的に接続サービスを行っているが,将来的には接続部分は教育用ネットワーク等にバトンタッチし,利用内容の議論中心の本来の姿に戻ることになる。これまでにも本プロジェクトを通して様々な問題点が明らかになりつつあり,今後本格的にネットワークを学校教育に導入していく際の指針を提供していくためのデータの蓄積が行われはじめている。
 このようなプロジェクトは様々なところで始まっているが,いくつかの基本的な研究集団をベースとし,それらをゆるやかにつなぐような研究プロジェクトの事例はこれまでのところあまり見あたらない。NICEで行われる様々な実践はボトムアップで広がっており,その根底の部分には各学校,各教師個人の日頃のクラス運営,授業が重要な意味を持っている。それらを支える形で地区毎の研究会が存在し,それらをゆるやかにつなぐ形でNICEが存在している。この形態はこれまでのトップダウン型の学校経営,学校文化とは真っ向から対立するものである。確かに会員の方の多くは情報の公開等に関してかなりの苦労を強いられている。しかしながら社会の動きにも後押しされる形で徐々にその方向は転回を始めているようである。
 インフラ整備の点は早急に解決しなければならない課題である。現在の実験環境ではアナログ電話回線を利用した接続であり,マルチメディア情報をリアルタイムでやりとりするのは困難である。また,児童・生徒が自分でこれらの環境を利用するためには,学校のコンピュータ等の整備も重要になってくる。これまでに導入されている機器では接続の設定に大変手間取るだけでなく,処理能力不足により利用者に多くのストレスを与えることになることもある。今回は大学との共同研究のためSINETを利用しているが,本格導入の場合は接続先等も考慮する必要がある。今回の実験を通して提案したい一つの接続モデルが以下のようなものである。

 ネットワークに関する知識はこれまでのコンピュータに関する知識と異なった新たな概念が数多く取り込まれている。また,ネットワークに関する技術は時々刻々と変化しており,設定等を間違いなく変えていかないとうまく動作しなくなってしまうサービスも存在する。本格的導入が始まった場合,そのサポートをどこが担当するのか。支援体制の構築,人材育成等を早急に行う必要がある。

【図3-5-8 学校間ネットワーク接続概念図(案)】

6.おわりに

 本研究プロジェクトは始まったばかりである。ネットワークの教育利用には様々な問題が山積されているが,様々な可能性も潜んでいることも明らかになりつつある。本プロジェクトでは一つのキーワードとして地域社会をあげている。ネットワークを用いた交流は技術的には簡単であるが,何を交流するのか,他地域と比較する際のものさしには何を使うかを考え,準備しておくことが,交流の成功の条件なのである。身近な地域を見つめ,他地域と比較し,もう一度身近な地域を振り返ることにより自己の基準を構成する事が可能になる,現在の学校に発信する価値のある情報は存在しているか問い直しが始まった。

(黒田 卓:長岡技術科学大学 計画・経営系)


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