まず,Apple社のMacintoshを利用し,各学校にコミュニケーションサーバ(FirstClassを使用)を設置する。子どもたちは,校内LANを利用してこの自分の学校のサーバに接続し,電子メールや電子会議室を利用する。各学校のサーバは,自動的かつ定期的に電話回線,ISDN回線,インターネットのいずれかを利用して中央のサーバにアクセスし,新たに送信された電子メールや電子会議室への書き込みを相互に送受信することによって,それぞれの学校のサーバ上のデータが更新されるといった分散型のシステム構成となっている。 |
2)活動の概要
(a) 会議室「いろいろな学校」
「いろいろな学校」は,参加校の自己紹介,地域の情報や子供の活動の成果としての作品を紹介できる場として設けられた。子供たちはお互いの学校や地域の情報を自由に見ることができると同時に,関心のある情報に対してはコメントや質問を投げかけることもできる。
例えば,東方沖地震直後には,被害を受けた阿歴内小中学校の友達に他校からお見舞のメールが送られ,阿歴内小中学校からは地震に関する体験談やヒビが入った道路,壊れた自宅の屋根や煙突などの被害状況をデジタルカメラで撮った写真などが送られている。また,東京都八丈島の八丈町立樫立小学校からは,自分たちの町にある史跡や,特産物である「あしたば」工場への社会見学の様子,黄八丈のことなどが紹介されたり,熊本県天水町立小天小学校からは,「みかんの里」「夏目漱石のいた那古井館」のことが報告されている。
この他,玉川学園小学部の子どもたちが国語で方言調べをすることになり,いくつかの「質問」をあらかじめハイパーカードで作成して,全国の友達になげかけた事例では,阿歴内の中学一年生が,北海道の方言の意味をメールに書くだけでなく,自分たちでマイクに向かいその発音・発声のしかたも添付して,玉川学園の子どもたちに返事を行っている。このように,デジタルカメラで撮影した画像ファイルや,音声ファイルも子どもたちが簡単に扱えるようになっているのである。
(b)会議室「わいわいクラブ」
「わいわいクラブ」は,子どもひとりひとりが主体的に参加し,自由に運営されていく会議室として設定された。「わいわいクラブ」としての会員登録を行う「メンバーリスト」,子供たち同士の交流や新しいプロジェクトのアイディアを出し合う場として利用されている「わいわい作戦会議」が中心である。
ここで,最初に生まれたプロジェクトが横浜市立中川西小学校の児童たちの発案で開始された「落がおコンテスト」である。デジタルカメラで写した児童生徒あるいは教師の顔写真をお絵描きソフトウェア「キッドピクス」で加工し,その加工の度合や面白さを評価し合うものである。この他,全国お雑煮比べなども行われた。
1)参加校
新規加入校 |
2)活動の概要
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「地域とくらし」では酸性雨や渇水調査,方言調べ,米についての情報交換,各地域について調べた内容を写真入りで紹介する【図3-5-3】ことなど多様な活動が活発に行われている。和歌山大学附属小では,ここに報告した和歌山についての情報をまとめ,WWWサーバで提供することも行われた。
(b)『子どものコミュニティ』第2ステージから「わいわいクラブ」は,会員登録,質問箱,ライブラリ,みんなでワイワイなどいくつかの部屋に分けられた。中でもフリートーキングの部屋である「みんなでワイワイ」は,連日多数の書き込みがあり,現在も活発なコミュニケーションが行われている。内容は多様であり,小学生,中学生が混在したネットワーク上のコミュニティが形成されている。第3ステージからは,子どもたちの意見により,さらに「アニメルーム」「こだわりの○○探索」「撮り物競争」などの部屋が加わっている【図3-5-4】。 |
(c)『デジタル新聞局』
毎日小学生新聞に連載中のエッセイ「オリハラ国ものがたり」が転載される「れんさい・よみもの」,「今日のニュース」,「読者の声」の部屋が新設された。第3ステージでは,日本教育新聞の新年号の特集ページを各校の編集委員が協力して作り上げる活動が「編集会議」「メディアキッズ新聞」などの部屋を利用して行われた。
(d)『インターネットの活用』
メディアキッズでの活動内容が,国際大学GLOCOMに設置されたWWWサーバ「Kids Page」上で公開されるようになり,第3ステージからは,メディアキッズのサーバからそのままインターネット上に電子メールを送ることが可能になった。また,各学校でWWWサーバを独自に立ち上げることも行われ始めた。さらに,専用回線で接続されている学校間では,CU-SeeMeによるテレビ会議も試行的に行われた。
(e)父母の部屋
教師間のコミュニケーションは,先生の部屋の「連絡事項」「作戦会議室」などを中心に行われているが,各学校の保護者が参加できる父母の部屋(MediaKids Cafe)も作られ,学校の枠を超えて保護者相互が情報交換を行っている。
こうした成果の背景には,システムやプロジェクトの運営に関しての手厚いサポートや,一部の教師たちの強力なリーダーシップがあると考えられる。現時点では,14校のクローズドな世界で行われているが,今後オープンにしていった場合,こうしたコミュニティを維持できるかどうかは課題となろう。また,中学生同士,小学生同士だけでなく,小学生と中学生のコミュニケーションが自然に行われていることは魅力的であるが,中学生はネットワークを介して知り合った友だち同士のコミュニケーションをメールで行うようになってきているといった傾向も見られ,今後子どもたちのコミュニティがどのように変わっていくのかは興味深い。また,これまでメディアキッズは学校間の交流が中心テーマであったが,今後,共同学習(コラボレーション)をどのように深化充実させていくのか,教科学習との関連やカリキュラムをどのように考えていくのかといった点にも注目したい。
なお,昨年9月に『メディアキッズ・コンソーシアム』の設立が発表され, 96年4月より新たな枠組みでプロジェクトが展開されることになっている。案内によると全国・海外の10校〜20校の小・中・高等学校が一つのコミュニティを形成し,学校教育における先進的な実践事例をつくるための「モデル校プロジェクト」と,全国の数百の小・中・高等学校のメディアキッズ登録校をバックアップするグローバルネットワーク「MediaKids Link」による「登録校プロジェクト」の二つのプロジェクトが展開されるとのことである。
引用文献・参考文献
(野中陽一:和歌山大学教育学部)
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