4 養護学校における実践

滋賀県立守山養護学校における実践

1.情報環境

(1)コンピュータ機種Apple Macintosh
(2)台数5台
(3)配置各教室及び病室
(4)ネットワークの形態内線電話を使ったモデム接続及びLocalTalk
(5)サーバApple Macintosh
(6)アカウント インターネットに関しては生徒のアカウントはないが,教師個人でインターネットのプロバイダに加入し,ダイアルアップでインターネットに接続し,ホームページ「病気と闘う子ども達のためのネットワーク」も公開している。
(7)利用環境に関するその他コメント サーバーソフト FirstClass(Create)  病状から病室外へ出ることを制限されている生徒と,同じクラスの生徒がコンピュータ通信が使えるように環境を整えた。

2.サポート体制

 現在,学校外からの恒常的な技術支援は受けていない。今後,教育におけるネットワーク利用に関する理解とサポートを公的な機関にお願いしたい。

3.実践の意図

1)教師の意図
 コンピュータ通信をメディアとして,文字・映像・音声を有効に活用し,病弱・虚弱児のコミュニケーションの拡大とインターラクティブな学習環境の保障による社会性の養成と,自学自習の態度を養う。

2)具体的方略
 病気で入院治療中の児童・生徒に,身近なコミュニケーションツールとしてのコンピュータ通信を設置することにより,児童・生徒の住む世界を病室内から学校へ,学校内から学校外へ広げる取り組みを行った。

4.学習活動

(1)学年
 小学部・中学部に在籍する児童・生徒を対象とした。

(2)教科,教科外等
 技術家庭・HR・休み時間・養護・訓練

(3)単元,領域等
   休み時間・技術(情報基礎)・養護訓練

(4)具体的活動

<集団不適応傾向のある生徒に対する取り組み>

1)対象生徒の実態
中学部1年 A 女子 整形外科疾患にて入院

 数人の小集団にも適応できず,孤立傾向があった。前籍校では,欠席がちであった。欠席時には,自宅で少女漫画を読みふけって,自分でイラストなどを描いていた。

2)生徒へのアプローチ
 彼女の得意なことをのばそうと考え,絵を描くのが得意なこの生徒に,キッドピクスを使えるようにした。

3)取り組みの経過
 一生懸命描いて,クラスメートから絶賛されていた。そこで,本校のコンピュータ通信MY-Net(以下MY-Netと記す)に発表してみようということになり,発表したところ,彼女が普段関わることが無い児童・生徒から,数多くのメッセージが寄せられた。

4)取り組みをふりかえって
 自分の気持ちを素直に絵で表現し,それをMY-Netに発表していくことにより,他のMY-Net利用者である本校や他校の児童・生徒に受け入れられ,その実力が認められた。描いた絵をきっかけにして話題が生まれ,交友関係が生まれた。また,他の生徒の目標になり,そのことが本生徒の自信につながった。

<難病により個室隔離されている生徒への取り組み>

1)対象生徒の実態
中学部1年 B 男子 C 女子  血液疾患にて入院
中学部1年 女子3名 いずれも整形外科疾患(うち1名はA)

 重篤な血液疾患にて入院治療を余儀なくされている生徒B・Cは,病状から行動を制限され,病院隣接の本校へも登校できないことが多く,闘病の一方で,様々なストレスと闘っている。教育対応している我々が入室するときがB・C両生徒の唯一会話を楽しむことができる時間である。しかし,それすらも病状から自由にならない場合が多い。

2)生徒へのアプローチ
 学期のはじめ,HRの時間に,全員で何か作り上げようということになった。Aの発案で,全員でしたきりすずめの電子紙芝居を作ろうということになった。
 その際,クラス全員が教室にそろうことが困難なことを考慮し,今後の話し合いや,意見交換,情報交換はMY-Netを使っていくことになった。

3)取り組みの経過
 取り組み途中に,MY-Net上に「中1したきりすずめプロジェクト」の計画発表や予告編ムービーの発表,ダイジェスト版の発表などを行った。

(a)あらすじ・場面・役を考える。
 あらすじを決め,5人で分担する場面の絵を決める。下絵を紙に描き,Pictの状態にして,B・Cの2名に,電子メールで送る。

(b)絵を分担して描く。
 B・Cは,病室内に設置したコンピュータを使って,教室から電子メールで送られた原画を元に,着色していった。この間,教室と病室で,作業の進行具合などが電子メールでやりとりされ,作業が不十分ということで,やり直しを電子メールで指示する場面も見られた。

(c)シナリオ(台本)を考える。
 病状から,教室の3名にて行った。

(d)録音をする。
 台本を電子メールで送り,B・Cも,病室で自分の役のせりふを録音した。

(e)電子紙芝居にする。
 生徒の中から,BGMを付けようという意見が持ち上がり,MIDIで,BGMを付けるなど,全員の力で,作り上げることができた。

4)取り組みをふりかえって
 MY-Netを使い,教室と病室を結び,共同作業を行ったことにより,病室の生徒には,より身近な 目標となった。また,クラスメートとのつながりを普通にもつことにより生きる力をつけたようである。また,学級の雰囲気も,病室の生徒を意識した雰囲気になり一方通行じゃない普通の関係がもてた。

5.成果と課題

 滋賀県立守山養護学校の太田容次教諭の実践については,京都教育大学附属教育実践研究指導センターの宮田 仁教官が協力・支援している。本実践を通し,児童・生徒が情報を処理し,情報を発信できる環境を整備することによって,病弱・虚弱児がもつ特有の問題を,個々に応じた形で,児童・生徒が自らの手で解決する糸口としてネットワークの教育利用が有効であったように考えられる。今日パソコン通信やインターネットは,個人の趣味といった域を脱し,今回の実践のように障害をもつ児童・生徒への教育利用により,今までの授業では成しえなっかった体験学習を,ネットというメディアを通し行えるようになった。今後もこのような事例を重ね,より効果的な学習のための教材・教具として学校の中で位置づけられるよう組織的,系統的に実践を継続していくことが大切である。
 一方,情報化社会の中で生きていく児童・生徒を育てるため,公費による通信環境整備が望まれるところであるが,ネットワークの長所を生かしつつ,病弱児童・生徒のプライバシーをどのように保護していくかなど,障害児教育の専門家との協力のもとで,慎重に取り組んでいく必要がある。

                           

(林 徳治:京都教育大学教育学部)


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